臭し 〜KUSASHI〜

 

第一回「降臨」

時は1596年、戦国末期。

実漏戸(みもると)に名高い悪餓鬼が居た。

その名は、新便垂蔵

父・無屁斎の厳格な指導の下、

幼少より糞道を会得していた垂蔵は、

近所に住む放屁田股八お痛らとつるみ、

人を見つけては手当たり次第に糞を投げつけていた。

(続く)

 

第二回「初陣」

ある日垂蔵がいつもの空き地に行くと、

何やら偉そうな奴が野糞をしている。

地面に放り出した看板にはこうあった。

『天下無双 有馬黄屁衛 誰とでも勝負致す』

 「面白え!」垂蔵はそう叫ぶと、

男の横にしゃがんで脱糞を始めた。

みるみるうちに積み重なるは垂蔵の巻糞。

「どうだ!」

「むむっ…」

負けず嫌いの有馬黄屁衛は、意地になって

渾身の力を肛門に込めた。

メリメリッ!

しばらくして村人が空き地に見たのは、

下半身血だらけで死んでいる男。

そして男の体の上には、立派な巻糞と

Tarezoの糞文字(筆記体)が。

垂蔵、十三歳の春のことであった。

(続く)

 

第三回「決戦」

十七になった垂蔵は、股八と共に

関ヶ原の戦いに西軍の一員として参加する。

しかしそこでの仕事は、兵のための便所を作ることであった。

面白くない垂蔵は、糞をしに来る武将との入れ替わりを画策。

果たして、武将は垂蔵が作っておいた

落とし穴にはまり、糞まみれになった。

しかしさすがは武将。垂蔵が襲う間もなく、

戦意喪失しながらもあっという間に去って行った。

この武将が小早川秀秋であったという。

間もなく西軍は敗れたが、垂蔵股八は得意の糞砲弾で

残党狩りを追い払って生きのびた。

(続く)

第四回「敗走」

逃亡中の垂蔵股八、山奥に清流を見つけ、

大喜びで喉の渇きを癒す。

ふと上流を見ると、お肛朱実母子が脱糞中であった。

腹痛が癒えるまでかくまってもらう二人。

数日後、野武士の一団がその家を襲いに来た。

垂蔵股八は母子を助けようと糞闘するが、

出るのは下痢ばかり。

だが、その匂いに耐えられずに野武士は去って行った。

「やったぞ、お肛さん、朱実!」

「何がやったよ。もうこの家には臭くて住めないじゃない」

お肛朱実は仕方なく旅に出る事を決意。

家の代償としてどちらか一人ついて来るよう命じる。

「俺が行く!」

「いや俺が!」

結局、じゃんけんに勝った股八が彼女らに同行し、

垂蔵はしぶしぶ郷里に向かうのであった。

(続く)

第五回「謀略」

実漏戸村に帰ってきた垂蔵

一本のたくあんを手土産に放屁田家を訪ね、

股八の母お拭(おふき)と婚約者のお痛に経緯を包み隠さず報告する

「…という訳で、股八は女について行っちまったんだよ

お拭は息子の成長にまんざらでもない様子。

「そうか、ご苦労じゃったの。飯でも食って行きなされ」

おかずには持参したたくあんが出され、

腹が減っていた垂蔵は、ご飯と一緒に一気にかきこんだ。

食べ終わってまもなく、激しい腹痛で気を失う垂蔵

実はこのたくあんは、村に着いてすぐに道端で拾ったものだった。

しかも、それはたくあんですらなかった。

数日前から村には、たくあんそっくりの野糞をする

沢庵という和尚が住みついていたのである。

さて、婚約者として放屁田家に置いてもらっているお痛は、

立場が危ういことを自覚していた。

 垂蔵が気を失っているのをいいことに、お痛お拭にこう言う。

「人格者の股八さんが私を置いてそんなことするはずないわ。

きっとクソ垂蔵がどこかに見捨てて来たのよ。」

「ぬぬっ…」

お拭は、半信半疑ながら念のため垂蔵を縛っておくことにした。

「そんな甘いことじゃ駄目よ。そうだ、こうしましょうよ!」

お痛の保身のため、木に吊るされた垂蔵

ようやく気がついたが、腹痛を含め全てがお拭の仕業と思い

下痢を撒き散らしながら悪態をつく。

罵倒されたお拭は、すっかりお痛の説を信用してしまうのだった。

(続く)

第六回「逃亡」

見物の村人たちが帰った夜更け、

木に吊るされた垂蔵のところに沢庵がやって来た。

垂蔵撒き散らした下痢便を嗅ぎ、

「おお、なかなかの香りだ。他人とは思えぬ」

原料は沢庵の糞なのだから当然である。

そのとき、草むらから男が飛び出してきた。

「我こそは宍戸排便!脱糞してもらおう!」

宍戸排便と名乗る男は、鎌で沢庵のパンツを切りつけた。

この鎌は腐り鎌といって、強い奴の糞で磨くことで

切れ味を増すものであった。

宍戸排便はそのための糞を探しながら旅していたのだ。

沢庵はとっさに鎌を蹴り上げた。

宍戸排便の手を離れた鎌は回転しながら上昇し、

鋭い切れ味で垂蔵を縛っていた縄を切断した。

垂蔵は5メートルほどの高さから宍戸排便の上に落下。

宍戸排便は気を失い、沢庵垂蔵は逃げた。

翌朝、宍戸排便垂蔵を逃がした罪で代わりに吊るされた。

着衣と腐り鎌に名前が書いてあったのが災いしたのだ。

宍戸排便はまだ顔も見ていない垂蔵を逆恨みした。

垂蔵とやらめ…次会った時がお前の命日だ…

 垂蔵への憎しみを募らす宍戸排便だったが、

そのまま日射病で死んだ。

(続く)

  第七回「名門」

股八らが京へ向かうと言っていたのを思い出し、

垂蔵は逃亡先を京に決める。

三日かけてようやく到着したが、

金は一文もなく、腹が減って死にそうであった。

垂蔵は京の大路のあちこちに落とし穴を掘り、

落ちた者を襲って金品を奪った後、

糞で生き埋めにするといったことを繰り返した。

平安時代に流行った「平安京洩痢案」という兵法であった。

これを聞いた吉岡道場当主、吉岡屁十郎は激怒し、

「この京で狼藉を働く奴は、拙者が成敗してくれる」

と立ち上がった。

勝負は京のはずれの野原で行われた。

「一本勝負!」

まず垂蔵が脱糞した。見事な一本糞。

その糞に屁十郎は見覚えがあった

幼い頃見た父の試合…父が生涯唯一の敗戦を喫した

相手の糞にそっくりであったのだ。

新便無屁斎殿をご存知か」

「そりゃ俺の親父だ」

屁十郎、糞をするまでもなく降参してしまった。

そしてこの勝負の結果を口外しないよう懇願した。

垂蔵は快諾した。金をゆする相手を確保したからである。

(続く)

  第八回「終焉」

その後垂蔵は、京の近くの田舎に「新便村」を作り、

商人となった股八らを呼び寄せ、

吉岡道場の援助と庇護の下で幸せに暮らしていた。

ある時、並々ならぬ気を放つ若い男が村にやって来た。

「拙者、佐々木小次郎と申す。しばらく休ませて頂きたい」

そして、数日ほど滞在した後、西の方へと旅立って行った。

垂蔵は彼と二度と出会うことはなかった。

ていうか、すぐに忘れた。

(完)

臭し〜KUSASHI〜は今回で打ち切りです。御愛読ありがとうございました。

 

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